春の扉 ~この手を離すとき~
智香は驚いたようにわたしを凝視している。
やっぱり別れ話のことを健太郎くんからは聞いていなかったんだね。
「智香は伝えないの? 」
わたしはまた袖で涙をぬぐうと真っ直ぐに智香を見た。
「どういうこと? 」
「智香の気持ちを、……健太郎くんには伝えないの? 」
「何を言っているの? ……やめて」
智香の声が震えだした。
わたしを叩いた手はさっきよりも震えているし。
「だって、……健太郎くんを見ている智香は楽しそうだけど苦しそうで」
「やめてってばっ! 」
そう叫んだ智香は同時に手を高く引き上げた。
叩かれると思った瞬間、
「何してんだよっ! 」
智香の腕を健太郎くんが掴んでいた。
智香の顔がみるみる蒼白になっていく。