春の扉 ~この手を離すとき~
智香のあとにわたしを見た健太郎くんは、わたしの頬が腫れているのに気がついたみたいで。
「お前、まじで何してんだ? 」
怪訝な顔をすると、智香の腕を持ったまま智香を覗きこんだ。
でも智香は健太郎くんから顔を反らして、そしてわたしを見ることもなくて。
「ごめん、わたし帰るから」
「おい美桜っ、待てって! 」
健太郎くんがわたしを呼び止めたけれど、もう話す気力もないし、心が持ちそうになかった。
今は一人にさせてほしい。
わたしは振り返らずに、二人を置いてその場をあとにした。