春の扉 ~この手を離すとき~
真っ白な月明かりの下で
――― この列車は回送列車になります。ご乗車のお客様は……
アナウンスに顔をあげると、列車の窓に反射するわたしの顔と、その向こうの暗闇の中、外灯の光が三角に照らしだす空間に雪が降っているのが見えた。
酷い顔してるなー
泣いて腫れている目に、雪で濡れてしまった髪。
頑張ったメイクはほとんど取れてしまっているし。
こんな状態で電車に乗っちゃってたんだ。
思わず自分を見ながら苦笑いが出てしまう。
おばあちゃんに会いたい。
ただそれだけで。
何も考えずに電車に乗ったけれど。
まさかの終電で……。
わたしはアナウンスにうながされるまま電車を降りた。