春の扉 ~この手を離すとき~
わたしはある所に電話をかけた。
誰も出るはずがないのは分かっているのに。
暗闇の屋敷の中を呼び出し音が鳴り響いてるだけ。
その光景を思い浮かべるだけで寂しさがより増してくる。
「おばあちゃん、……出てよ」
無意味なことをしているのは分かっている。
ますます寂しくなることも、決して叶わないということも。
それでもすがりたかった。
奇跡がおきてほしいと願ってしまった。
涙がこぼれないように見上げた夜空。
雲の合間に、飛行機の点滅ライトがほんの少し見えた。
あの日、咲久也先生が『流れ星』と間違えた飛行機のライト。