春の扉 ~この手を離すとき~
「先生と会わなければ寒くなんてなかった。寒さも冷たさも感じずに生きていられたのに。先生に会わなければ、先生と出会ってしまったから……全部、先生のせいっ」
「それは、」
「どうしてわたしに暖かさを、こんな気持ちを、……思い出せるの? だからわたし、寂しくて、寒くて、……凍えてしまいそうで……」
涙が止まらなくなって言葉がつまり、うまく伝えられない。
「ごめんね……、僕が、美桜を冬に閉じ込めてしまったんだ」
そういって先生はまたしっかりとわたしを抱き締めてきた。
ふりほどこうと思えばできる強さなのに、できない自分に嫌気がしてくる。
『この腕の中にいたい』ってわたしが望んでいる。
でもそれだと、また傷ついてしまう人が……。
「早く、彼女ところに戻ってあげてください」
「違うよ美桜、……僕の話を聞いてほしい」
先生はつらそうな声で、わたしの頭に頬を強く押しつけてきた。