春の扉 ~この手を離すとき~

――コンコンッ


控えめにノックをする音。
多分わたしを起こさないための配慮なんだと思う。


本当に先生がいてくれているの?

けれど、どんな顔をして会えばいいのか分からない。
逃げてしまいたくて、寝たふりをしようかと考えるわたしの返事を待たずに、ドアは静かに開いた。


そして部屋に入ってきたのは……。


「……お母さん、どうしたの? 」


心の扉が、淡い期待をぎゅうっと閉め出した。
閉め出された気持ちは、水を絞りきったスポンジみたいにスカスカになって転がり落ちて消えていった。


なんでこの人がここにいるの?


「……目が覚めた? お薬飲めそう? 」



この人はわたしと目が合うと、わたしの考えていることに気がついたようで、持ってきたトレーを机に置きながらため息をついた。

トレーからは白い湯気がたちのぼっている。
どうせレトルトのお粥を温めただけなんだろうな。


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