春の扉 ~この手を離すとき~
「ねぇ美桜? 先生に連絡をするぐらいなら、私に直接電話をしてくればいいんじゃないの?」
咲久也先生がこの人に連絡をしたの?
「早朝に先生を呼び出して、しかもお薬と飲み物を買っていただいているなんて。申し訳なくて何度も頭を下げたわよ 」
それって、先生が朝まで側にいてくれていたってこと?
わたしが夜に出ていたことは黙っていてくれたの?
雑にカーテンをあけるこの人の顔は、太陽の光が眩しいから目を細めているというよりは、不機嫌そのものだった。
わたしに“母親としての世間体”を害されたことが、余程気に入らないのだと思う。
「とにかく、これを食べてからお薬を飲んでおいて。仕事が終わったらまた来るから寝ていなさいね」
「……別に来なくていいよ」