春の扉 ~この手を離すとき~

思わず、拒絶するような言葉を使ってしまった。

“この人はわたしの具合よりも仕事を優先する”
そんなことは分かりきっているのに。


「あのねぇ、そういうわけにもいかないでしょう? 」


この人は眉間にシワを寄せながらため息をついた。

どうしてそんな顔をするの?
そんなにわたしのことが面倒くさいの?

寂しさがどんどん込み上げはじめた。


「なにが? どうせまた世間体を気にしているだけなんでしょ? 先生から連絡がなかったら来るつもりもなかったくせに」

「……美桜、何を言って」

「わたし平気だから。これまでだって、どんなに苦しいときでも寂しいときでも、お母さんは来てくれたことなんてなかったじゃないっ」


わたしどうしたんだろう。

こんなことをこの人に言っても意味がないのに。
けれど、この寂しさを伝えたくて、分かってほしくて……。


「わたしがどんな思いでこの家にいるか分かる? そんなに、……そんなにわたしが嫌いっ? 」


やだ、……泣いてしまいそう。
それほどわたしはこの人を求めていたの?
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