春の扉 ~この手を離すとき~
「何を言っているの? そんなわけないでしょう 」
「じゃあどうしてわたしを避けるのっ? 」
「美桜、落ち着きなさい。動くと熱が上がるから」
いつの間にか体を起こしていたわたしを、この人は強く寝かしつけようとしてきた。
「そうね。確かに私はあなたを避けているわよ。でもね、嫌いなわけないでしょう? 」
……どうして?
いつもわたしに対しては遠慮がちな顔をして、目もほとんど合わせようとしない人なのに、今は真っ直ぐにわたしを見ている。
けれど……
「そんなの、信じれるわけない」
「話を聞きなさい! 」
触られたくなくて腕を払いのけようとするわたしに、この人はピシャリと言い切った。
その強い口調に、わたしは動けなくなってしまった。