春の扉 ~この手を離すとき~


なのに。


ネットを抜けたボールは軽い音を響かせながら、よりにもよってこっちに向かってくる。


うそっ、


ハッと我にかえり、慌ててボールをとろうとしてカバンを足元に置いたまではよかったけれど……。

わたしに気がついた咲久也先生と一瞬視線が重なると、
『上手く拾わなきゃ』
という変な意識が生まれて。


結局、不格好にしゃがんでしまい、ボールを拾うというよりは押さえこんだ形になってしまった。


もう最悪……。




「ありがとう。それともごめんね、かな? 」

「いえ、とんでもないです」


申し訳なさそうな、でもどちらかと言えば笑いをこらえるような先生の表情。

その『ごめんね』は不格好にさせてしまってってことよね?


「無理に取ろうとするのはだめだって……」


ああやっぱり……。

思いきり恥ずかしくなってきて、顔が熱くなってしまう。

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