春の扉 ~この手を離すとき~
これまでにたくさん言い合いをしてきているから、注意されたり怒られることなんて怖くもなんともないはずなのに。
でも今のは違う。
この人が初めてわたしと向き合ってくれようとしているような気がして……。
そして、その言葉を聞きたいと思った。
わたしは素直に、というよりは、されるがままに寝かされた。
そしてこの人はわたしに布団をきちんとかけ直すと、ベッドに座りわたしの髪を手ぐしで整えてきた。
……わたし、撫でられているの?
この人にこんな接し方をされた記憶がないから、正直、戸惑ってしまう。
「美桜のせいではないのよ」
「……じゃあ、どうして? 」
「私があなたを避けてしまうのは、……あなたがお義母さんに似ているからよ」
「……おばあちゃん? 」
そのとき、リビングからかすかにスマホの着信音が聞こえてきた。この人のスマホで、きっと会社からの電話なんだと思う。