春の扉 ~この手を離すとき~
なのに、いつもは何をしていても会社を優先にするこの人が、今はわたしから目線をそらすことさえしない。
「……出なくていいの? 」
逆に、仕事を放っておいても大丈夫なのかと気になってしまうわたしに、この人はゆっくりと瞬きをしながらうなずいて……。
そして、話を続けた。
「まぁ、よくある嫁姑問題ね。美桜は大きくなるにつれて顔も性格もどんどんお義母さんに似てきたから、私にはそれが辛くて仕方がなかったのよ」
そう言ってこの人は、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
その苦笑いはわたしに『ごめんね』って言っているようで。
わたしがおばあちゃんの話しをしたり、おばあちゃんの家に帰ることを、この人が嫌がっているのは分かっていたけれど。
似ているからっていう理由なら、わたしにはどうしようもないこと。