春の扉 ~この手を離すとき~

「でも、わたしはおばあちゃんじゃないよ? 」

「そうね。美桜は美桜だもんね」


“……うん、……うん”と自分を納得させるようにうなずいたこの人の目には、じんわりと涙が浮かびはじめた。


「こんな話をすると、おばあちゃんっ子のあなたはますます私を嫌いになってしまうわね」

「……え? 」


どういうこと?
この人はわたしに嫌われていると思っているの?

これまで何度も嫌気がさしたり腹立たしいことはあった。わたしはそれを態度にも出してはきたけれど、それと『嫌い』とは違うのに。


あきらめたような微笑みを浮かべながら、この人はわたしの頭を撫で続けていた。
慣れないその優しい感触は、いつの間にか心地のよいものに変わっていて、わたしをじんわりと眠りへと誘いはじめている。

でも、きっとそれだけではない気がする。
この人の本当の気持ちが聞けて、安心したのだと思う。
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