春の扉 ~この手を離すとき~
「美桜、眠りなさい。お母さんは側にいるから」
……側にいてくれるの?
そんなこと、これまで言ってくれたことなんてないのに。
でも、今ならこの人の言葉を信じれる。
そしてわたしの言葉を信じてほしい。
「……お母さん」
「なに? 」
「わたしね、お母さんのことを嫌いって思ったことなんてないよ」
「……、」
少し驚いたようなその顔に『うん』と素直にうなずくと、満たされてゆく心が心地のよい重さを感じさせてくれて……。
わたしはこの家に来て、初めて眠れそうな気がした。