春の扉 ~この手を離すとき~
その間、会社を休んだあの人はずっと家にいてくれて、わたしの看病をしてくれた。
それに初めて手料理も作ってくれた。
『……ご飯、作れるんだね』
テーブルに並べられた煮物や魚料理に驚くわたしに、あの人は照れたような笑顔を浮かべていた。
まぁ、後片付けだけは病人のわたしがさせてもらったけれど。
あれからおばあちゃんの話は一切出てはこなかった。
あの人なりに話すタイミングがあるのかもしれないと思ったから、わたしから聞くことはせずにおいた。