春の扉 ~この手を離すとき~
わたしが席につくと、文乃は授業3日分のノートをドンッと机に重ね、にやりと笑った。
絶対になにか企んでいるに違いない。
「今日、ノート借りててもいい? 」
「もちろん。お礼は肉まんでいいよー」
やっぱりね。
「テスト前に毎回わたしのノートを写しているのは、どこのどなたでしたっけ? 」
わざと指を折りながらこれまでに貸した回数を数えるふりをすると、文乃は
「それはそれ。これはこれ」
と調子よく笑ってきた。
これを休憩時間に写せば、智香と会話をしなくてもいい口実にはなると思うけれど、いつまでも避けているわけにはいかない。
ちゃんと向かい合って話をしないとって気持ちはあるのだけれど、言い出せる勇気がまだ少し足りなくて。