春の扉 ~この手を離すとき~
「ほーら、池じいが復活したんだって」
がっかりしながら文乃は自分の席に帰っていった。
……嘘。
じゃあ咲久也先生は?
「美桜、……美桜? 」
教壇に咲久也先生の姿を探すわたしを、智香が小声で呼びながらつついてきた。
その表情は“知らなかったの? ”という怪訝な、でも心配そうな顔だった。
わたしが首を振ると智香は驚いたようで目を見開いた。
頭の中がどんどん真っ白になっていく。
『大丈夫だよっ』って作り笑顔を智香に見せる余裕すらなかった。