春の扉 ~この手を離すとき~
その日の夜は雲っていて星も月も見えないけれど、いつもよりは寒くない夜だった。
家にいてもどうすることもできないし。
いてもたってもいられなくて、わたしは咲久也先生との待ち合わせをしたあの場所に、同じ時間に向かっていた。
そこに先生がいるはずなんてない。
待っているはずなんてない、きっとない。
だけれど、そこしか先生とわたしを繋ぐモノがないから。
もう会えなくなるなんて思いもしなかった。
どうして学校からいなくなることを教えてくれなかったんだろう。
先生が『話したいことがある』って言っていたのはこのことだったの?