春の扉 ~この手を離すとき~
それとも先生にとってのわたしは、こんなことを言う必要もない存在だったのかも。


そうだとしたら……


もし先生がそこで待っていたとしても、わたしは先生に何を伝えればいいんだろう。

この気持ちが、いつの間にか速くなっていた歩くスピードを緩めた。

乱れた呼吸を整えていると、コートの暖かさと重さでじんわりと汗ばむ体が不愉快にも感じてきて。

着こんでくるんじゃなかったと少しだけ後悔しながら、荷物になると憂鬱になりながら、コートを脱いだ。
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