春の扉 ~この手を離すとき~

「あなた、咲久也のことをどう思っているわけ? 」

「……あのっ、」


この人に咲久也先生への気持ちを答えたくなんてない。
それに一方的に責めらているみたいで怖くなってくる。


「好きじゃないのなら、……咲久也を返して 」


どういうこと?
この人はわたしが先生を奪ったとでも思っているの?

というか『返して』とか。
人の気持ちを自分の物みたいに言うことに嫌悪がする。


「なにか誤解をされていると思います。それに先生の気持ちは先生のものだから、あなたやわたしが決めれることじゃ、」

「お利口さんぶってもわたしは騙されないから。本当に咲久也はお人好しよね」


詩織は呆れたように首をふって、哀れみの目をしてわたしを見てきた。


「けなげないい子を演じているのよね? そうやって咲久也の罪悪感を煽って楽しんでいるだけなのよね?」

< 284 / 349 >

この作品をシェア

pagetop