春の扉 ~この手を離すとき~

「いったい何の話ですか? 」

「あなたが一番分かっているはずでしょ。咲久也はずっとあなたたちにとらわれて苦しんでいるじゃない」

「だから何の話を、 」

「しらばっくれないでっ! 」


急に大きくなった詩織の迫力のある声に、わたしは言葉を失ってしまった。



「お願いだから咲久也を解放してあげて。……わたしに返してよ、お願い……」


なのに今度は突然弱々しくなって、詩織は涙を流しながらわたしの両腕にすがり始めた。

けれど、掴んでいる力はものすごくて、振り払うことができない。


罪悪感とか解放とか、話の意味は分からないけれど。

この人はとても傷ついているんだと思う。
その傷をつけてしまったのは、わたしと先生なの?



「痛っ、離して……」


詩織が握りなおしたとき、髪まで巻き込んで引っ張られた。

けれど詩織は「返して、返して」と泣くばかりで。
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