春の扉 ~この手を離すとき~

「美桜っ?! 」


振り返ると健太郎くんが駆けよってきている。
その後ろからは、部活の帰りみたいで文乃と純輔、そして智香も一緒にこっちに向かっていた。



「ちょっとおばさん、何してんだよ」


この情況はみんなにとっても異様な光景だったのだと思う。
駆け寄ってきた健太郎くんと純輔が、詩織をわたしから引きはがしてくれた。

そのときに数本の髪が抜かれてしまって、頭に痛みが走った。

すぐに追いついた文乃と智香はわたしを詩織から遠ざけると、かばうように背中に隠してくれた。


詩織はその場にしゃがみ込むと「咲久也を返して」と喚きはじめた。


それだけで“恋愛のもつれ”が起きたのだろうとみんな理解したみたいで、顔を見合せながら言葉をつまらせた。



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