春の扉 ~この手を離すとき~

「美桜、大丈夫? 」


文乃が心配しながら、わたしの髪を整えるように頭をなでてくれた。


「ごめんね、でも何の話かよく分からなくて」

「あのお姉さんヒートアップしてるもんねー。修羅場って初めてみたー」


お気楽な言葉とは違って、苦笑いしながらチラッと詩織を見た文乃。

健太郎くんと純輔がしゃがみこんで話を聞こうとしているけれど、詩織は変わらず泣き続けている。

このままにしておくわけにもいかない。
話を聞こうと近寄ろうとするわたしの腕を智香が止めた。


「混乱しているようだし変に刺激しない方がいいよ。あの人の話は私が聞いておくから、文乃は美桜を家まで送ってあげて」

「でも……」

「美桜、知らないところで人を傷つけていることだってあるんだよ」


わたしに冷たく言い放つ智香。


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