春の扉 ~この手を離すとき~
その言葉がぐさりと心を貫いていこうとしたとき、
「お互い様だけれどね」
そうつけ加えて智香はわたしに微笑んでくれた。
「……智香」
わたしは何も言えずに首をふると、智香にぎゅっと抱きつくしかできなかった。
「文乃、この甘えん坊を早く連れて帰って。また熱が出ても困るから」
わたしをぎゅーっと抱きしめ返してくれた智香は、いつまでも離れようとしないわたしを無理矢理に引きはがすと文乃に渡した。
「なんかよく分かんないけれど、とりあえずここは智香にまかせて帰ろっか? 」
「うん」
わたしは気になってもう一度詩織を見た。
すでに純輔は嫌気がさしたのか、ため息をつきながら智香と入れ替わろうとしている。
「いいから行こ。純輔も帰ろー」
わたしは文乃に手を引っ張られるがまま、その場をあとにした。