春の扉 ~この手を離すとき~
「健太郎から聞いたけれど、車にいたってやつでしょ? でもそれって、あの人が先生を待ち伏せしていただけのような気がする」
「……え? 」
「だってさ、昨日は美桜と鉢合わせしただけであって、あの人は先生のことを待っていたんだよ? 臨時講師が終わっていることも知らなかったし」
そう言われれば、詩織はわたしに『咲久也はもうすぐ来るの?』って聞いてきた。
“彼女”という立場なら、約束もしていないあんなところで待ち続けるわけがない。