春の扉 ~この手を離すとき~
「わたし、本当に1人で帰れますから」
「だとしてもごめんね。僕には責任ってものがあるんだよね」
繰り返される押し問答。多分これで3回目だと思う。
教員として、暗い夜道に女子生徒を1人だけで帰らすわけには行かないらしくて。
「はい、狭いしボロいけれど我慢して乗ってくれるかな? 」
わたしを駐車場まで誘導した先生は、黒い軽自動車の横に立つと助手席を開けた。
体育館で差し出された手といい、こんなエスコートをしてもらったことがないから、胸がきゅんとなってしまう。
そして、うれしさと恥ずかしさでにやけてしまいそうな顔を平常に保つのに必死だった。
「でも、悪いですし」
多分これはもう断りきれない。
でも最後にもう1度だけ遠慮をしてみた。