春の扉 ~この手を離すとき~

だとすると、バレンタインの日も?


そういえば詩織は、わたしと目が合ったあとに先生に抱きついた。
あれはわたしに見せつけるために、わざとだったのかもしれない。


じゃあ、やっぱり詩織は先生の彼女ではないってことなの?


ホッとすると同時に『違う』と言ってくれた先生の言葉を受け入れなかったことに、信じることができなかったことに胸がしめつけられていく。


「あと、……先生が留学するって話は聞いていた?」

「留学ってなに? いつ? 」

「2年間カナダに語学留学するらしいんだって。それで会えなくなるってあの人焦っていたんだけど」


どうして?

どうして先生は臨時講師が終わることも、留学のことも、教えてはくれなかったの?


わたし、……詩織の立場と変わらないじゃない。

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