春の扉 ~この手を離すとき~
「それでね、美桜……」
智香はわたしの涙が落ち着くのを待ってから、改まるように姿勢を正してまっすぐにわたしを見た。
「なに? どうしたの? 」
智香に合わせなきゃ、と思ったわたしは涙をふくと座りなおした。
「いろいろ、……ごめんなさい」
「やだ、頭をあげてよっ」
頭を下げてくる智香に驚きながら、周囲のお客さんの目も気になってしまう。
でも誰もこっちを見ていないみたいだった。
「あの人を見て同じだって気がついた。わたしも美桜に嫉妬してたんだね」
「……智香」
「それと、健太郎が酷いことをしてごめん」
「……、もしかして、聞いたの? 」
智香はゆっくりとうなずいた。
きっと公園でのことだよね。
それだけは智香に知られたくなかったのに。
「わたしが謝るのも変だけれどさ、カミングアウトと同時にひっぱたいておいたから。あ、でもこれは嫉妬なんかじゃなくて、大切な友達に軽はずみなことをしようとしたことに対してね」
……大切な友達
わたしのことをそう思ってくれているなんて。