春の扉 ~この手を離すとき~
「健太郎くん可哀想。智香ってすっごく力が強いのに……」
「それも本当にごめんっ」
あ、どうしよう。
わざと笑い話にするつもりだったのに、智香はますます頭を下げてしまった。
「ねぇ智香? 隣に座ってもいい? 」
やっと気持ちが通じ合えたから、向かい合っているだけのこの距離が遠く感じてきて。
頭をあげてくれた智香は、ソファをポンポンと叩いて『隣においで』と催促してくれた。
わたしは遠慮なく横に座ると、智香に甘えるようにピタッと頭をくっつけた。
「わたしもごめんなさい。智香と健太郎くんに酷いことをしてたよね」
「健太郎がしつこかったんだよ。でも、私たちは話せばすぐにわかり合えたことなのにね」
「うん。ずいぶん遠回りしちゃったね」
智香は呆れたようにふふっと笑ってくれた。