春の扉 ~この手を離すとき~

「あー、話がそれた。でね、公園にいたらね」


智香が照れてる。
わたしはふふっと笑いながら話に耳をかたむけた。


「先生が走ってきたんだよね」

「先生が? 」

「『美桜を知らないか? 』って。遠野じゃなくて“美桜”だよ“美桜” 。私たち驚いてちゃってさぁ」


2人のとき以外は、わたしを必ず『遠野』って呼ぶ先生なのに……。


「あの穏やかな先生が余裕のない顔をしていたし。健太郎が『お前なぁ』って絡んだけど、簡単に振り払われてたけれどね」


それはなんとなく想像できるというか、見たことがあるというか。

でも先生が余裕のない顔だなんて。
わたしのことをそんなに探してくれていたの?


うん、そうだよね。
心配かけちゃったよね。


だって雪の公園でわたしを見つけてくれた先生は、泣きそうな顔をしていた……。

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