春の扉 ~この手を離すとき~

「そのときにね、美桜のチョコを渡したの」

「え、やだっ! あんなぐちゃぐちゃになったものを渡したの? 」


智香に叩かれたときに落としたやつ。
そのまま拾うこともできなかったあのチョコレート。


「あんなにボロボロの箱なのにさ『お前んだぞ』って健太郎が突きつけたら、受け取ったとたんに先生の表情が崩れちゃってね」


……先生が?


「嬉しいのか悲しいのかはよく分からない顔だったんだけれど。それを見て健太郎は諦めがついたんだよ。思いが違いすぎるって」


そんなことがあったなんて。

それに放っておかれても仕方のないあの状況で、チョコレートを拾ってくれていた智香と健太郎くんの優しさに涙が出そうになってくる。
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