春の扉 ~この手を離すとき~

「あのとき美桜はどこにいたの? 先生と会えたの? 」

「……うん。実はあの日ね、先生と待ち合わせしていたの。話があるからって」

「その話って、臨時講師が終わることと留学の話だったんじゃ? 」


そうであって欲しいけれど、もう確かめることはできない。


「んー、どうなんだろ。でね、待ち合わせの場所に行ったらね、あの人が先生に抱きついて……」

「……でた」


それを聞いて智香はげんなりとうなだれてしまった。
余程、昨日の詩織が大変だったのだと思う。


「わたしその場にいれなくなっちゃって、そのあとに智香と、……ねー」

「ねー」


わたしたちは顔を見合わせると、お互いにわざと苦笑いを浮かべた。
笑い合える出来事になってくれて本当に良かったと思う。
< 308 / 349 >

この作品をシェア

pagetop