春の扉 ~この手を離すとき~
「それで、もう何もかもが嫌になっておばあちゃんの家に行こうとしてたの。でも途中で電車がなくなって、知らない町で途方に暮れていたら、先生が迎えにきてくれたの」
「どうやって? だって先生の連絡先は知らないんだよね? 」
「うん、すごい偶然だよね。わたしも驚いちゃった」
……本当。
先生はどうしてあの町にわたしがいることか分かったんだろう。
「偶然というよりは、もう運命だよね 」
「そんな大袈裟だよ。それにわたしが意地をはっちゃったから今のこの状況です」
わたしの話を聞きながら、智香は急に何かを考えはじめたみたいで、あごに手を添えながら首を傾けた。
「……ちょっと聞くけれど、先生はおばあ様の家の場所を知っているの? 」
「ううん、知らないけれどどうして? 」
わたしの答えに何かを納得したようで、智香は大きくうんとうなずいた。