春の扉 ~この手を離すとき~

「それで、もう何もかもが嫌になっておばあちゃんの家に行こうとしてたの。でも途中で電車がなくなって、知らない町で途方に暮れていたら、先生が迎えにきてくれたの」

「どうやって? だって先生の連絡先は知らないんだよね? 」

「うん、すごい偶然だよね。わたしも驚いちゃった」


……本当。


先生はどうしてあの町にわたしがいることか分かったんだろう。



「偶然というよりは、もう運命だよね 」

「そんな大袈裟だよ。それにわたしが意地をはっちゃったから今のこの状況です」


わたしの話を聞きながら、智香は急に何かを考えはじめたみたいで、あごに手を添えながら首を傾けた。


「……ちょっと聞くけれど、先生はおばあ様の家の場所を知っているの? 」

「ううん、知らないけれどどうして? 」


わたしの答えに何かを納得したようで、智香は大きくうんとうなずいた。

< 309 / 349 >

この作品をシェア

pagetop