春の扉 ~この手を離すとき~

「だってよく考えてよ。夜中に知らない町に美桜を探しに行ける? 美桜がおばあ様の家に向かうことが分かってて、電車がどこで終わるかも知らないと普通は無理でしょ 」

「……え? 」


先生が迎えに来てくれたのは不思議だとは思ったけれど、理由なんて思いもつかないし、答えが簡単で納得がいく“偶然”だと思っていた。


でも、……あんな偶然あるわけがない?


じゃあ、どうして?
どうして先生はわたしがおばあちゃんの家に行こうとしていることがわかったの?


「やっぱり、あの人が言うように美桜と先生って何か繋がりがあるんじゃないの? 」


智香の言葉にわたしは思わず立ち上がって、そして時計を見た。


まだ午前中。



「気をつけて行っておいで」

「ごめん、明日は学校間に合わないかも」

「了解っ! 」



智香にポンッと背中を押されて、わたしはそのまま駅へと急いだ。




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