春の扉 ~この手を離すとき~

……懐かしい。
これ桜の木に巻いてあげたマフラーだよね。


雪の日に桜の木が寒そうだったから、一緒に遊んでくれていたおにいちゃんのマフラーとわたしのマフラーを結んで長くして、巻いてあげて。


でもそれを見つけたおばあちゃんに、きつく注意されたんだよね。


『寒さを知らない桜は美しい花を咲かせることができないの。中途半端に手を差しのべることほど可哀想なことはないのよ』


おばあちゃんの言葉をまざまざと思い出すことができる。

いいことをしてあげたと思っていたのに怒られたことが理不尽に思えて、すごく悲しい気持ちになって。


そういえば、咲久也先生にも同じことを言われたな……。


……え?


胸がドクンと高鳴って、血の気が引くように緊張する。

しっかり意識を持っていないと気が遠くなりそうなほどに。



待って……。

このマフラーは誰のもの?

あのとき、一緒に遊んでいた人は誰?

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