春の扉 ~この手を離すとき~

子供服を詰め込むことを放り出したわたしは、アルバムをひろげた。


あれは、……あの人はだれ?

どこにいるの?



幼い頃のわたしがどんどんとめくれていく。
おばあちゃんや少し若い妙子おばさんと写っている写真、幼稚園のときの友達やお遊戯会の写真があるけれど。


記憶の中に浮かんでいる雰囲気の人はどこにもいない。


3冊目のアルバムの表紙をめくると、わたしはそこで手を止めた。


最初のページに、和紙の上に置かれた桜の花びらが2枚閉じられていた。


その側におばあちゃんの字で


『美桜が初めて取れた花びら。どうか願い事が叶いますように』


と書かれていた。


そうだ、あのとき2枚とれて……

1枚目は
『おかさんもいっしょにくらせますように』
って。

2枚目の花びらには……何を願ったんだっけ?
記憶がもやもやとしてはっきりと思い出せない。


でもそんなことより、今はあのマフラーの人を探さないと。

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