春の扉 ~この手を離すとき~
『桜の君は無理につかもうとするから、桜が嫌がって逃げてしまうんだよ』
『だってとれないんだもん。もういいっ 』
『ほら、こうやって……、ね』
『……とれた! おばあちゃんみて、とれたの』
ポタポタと涙に濡れるアルバムを袖で拭きながら、ページをめくっていくと、他にも二人で写っている写真が何枚かあった。
咲久也先生にわたしが後ろから抱きついていたり、膝に乗っておにぎりを食べていたり。
仲のいい兄妹みたいに楽しそうな写真。
どうして?
先生はわたしが美桜だと分かっていたんだよね?
なのにどうして先生は何も言ってはくれなかったの?
先生が写っていたのはその年の夏までだった。
他には手がかりになるものは何もなさそうで……。
……桜の木。
あの桜の木なら何か教えてくれるかも。
そう思うと、わたしはコートをつかんで桜の木へと向かった。