春の扉 ~この手を離すとき~

夜中に雪が降っていたのか、外は白い世界が広がっていた。
太陽の光を反射してまばゆいほどの白い世界。


だけれどその美しい世界には目もくれず、わたしは桜の木へと向かった。



どうして忘れてしまっていたの?

どうして先生は黙っていたの?


わたしたちは出会っていて、同じ思い出を持っているのに。


桜の木へと近づくにつれ、少しずつ先生との記憶がよみがえり始めた。



咲久也先生は、長いお休みになると家族でこの町に遊びに来ていた『さくやおにいちゃん』だった。


おばあちゃんの友人家族かなにかで、よくわたしと遊んでくれていて。
今思えば、おにいちゃんはわたしの子守りをさせられていただけなのかもしれないけれど。

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