春の扉 ~この手を離すとき~

そして、アルバムに挟んであったあの花びらは、おにいちゃんに手を添えてもらって、一緒にとれたもの。


2枚もとれるなんて思っていなかったからお願いごとを用意していなくて。

戸惑うわたしにおにいちゃんは

『来年も一緒にお花見できますように』

って微笑んでくれた。


でもその冬におばあちゃんが事故にあって。
そしてすぐにあの人と暮らすことになって、この町を離れることになったから。

毎日、おばあちゃんが恋しくて、寂しくて。
その中でわたしはおにいちゃんのことを忘れてしまったのかもしれない。


桜が咲くたびに願ったことを後悔していた。

わたしが願わなければおばあちゃんが死ぬこともなかったのかもしれないって。

願うことは引き換えに大切な何かを失うんだって。



でも、


………会いたい



先生に会えるのなら、この願いが届くのなら

苦しさも悲しさも受け止めるから。



……、先生に会わせて




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