春の扉 ~この手を離すとき~
桜の木へとたどり着くと、そこに広がる世界に、まるで大きなスノードームの中に入ってしまったんじゃないかと錯覚してしまうような美しい世界に息をのんだ。
桜の木の枝に降り積もっている純白の雪が、満開を迎えた桜の花が咲き誇っているように見える。
そして、桜を揺らす冷たい風に舞い散らされた雪の花びらは、キラキラと太陽の光を反射しながら辺り一面を輝きで満たしていた。
思わず手を差し出すと、一片の雪が手のひらに舞い落ちてきて……。
……初めて一人でとれた
そして花びらは、音もなく溶けていった。
お願い、咲久也先生に会わせてください
わたしは心の中で強く願うと、桜の木へと寄り添った。