春の扉 ~この手を離すとき~
おばあちゃんが取り上げたりなんてするわけないけれど。
でもあの人、そんなことが分からなくなるぐらい、懸命に働いてくれていたんだ。
今でもあの人が仕事を最優先にしているのは、母子家庭や世間体を異常に気にしているのは、おばあちゃんに弱味を見せたくないっていう延長線上なのかもしれない。
その理由は“わたしと暮らすため”。
妙子おばさんはわたしの隣に座りなおすと、わたしを寄りかからせるように抱きしめてきた。
「でも玉緒ちゃんはね、美桜ちゃんと暮らし始めてからはそりゃあ辛そうでね」
「……わたしがおばあちゃんに似ているからなのでしょ」
愛されていた時期があったことを知ってしまうと、“見た目”という理由で避けられている今のこの状況は悲しすぎて……。
じんわりと涙が浮かんできて、わたしは小さく鼻をすすって、唇を噛んだ。