春の扉 ~この手を離すとき~

「美桜ちゃんは松子さんの事故を覚えているね? 」

「うん。……雪の日にスリップした車がバス停に突っ込んできたんだよね」


おばあちゃん以外にも、巻き込まれた人が何人もいた大きな事故だとは聞いている。

病院に運ばれたおばあちゃんはその日のうちに意識がなくなって、そして2日後に息を引き取った。


「あのとき、咲久也くんもそのバス停におってね、松子さんがとっさに咲久也くんをかばったらしいね。それであの子は助かったんよ」

「おばあちゃんが先生を?! 」


そこまで言うと妙子おばさんは目頭を押さえた。

そっか。
先生が手紙に書いてくれていたことは、この出来事なんだね。


「咲久也くんの意識が戻ったときには、美桜ちゃんは玉緒ちゃんのところに引き取られた後やった。あの子は何も悪くないのに自分を責めたらしくて、目を離せない時期もあったらしいね」


目が離せないって……。
それって命を絶とうとしたってこと?

そんなことをしてしまうぐらい先生は苦しんでいたの?

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