春の扉 ~この手を離すとき~
「でも思い出すねー。昔おじさんにプロポーズしたら、次の日にこの花の花束を持ってきたんよ」
「……へ? おばさんからプロポーズしたの?! 」
「あの人にはあたししかおらんと思うたからね。でも指輪ぐらい買ってきてくれるんかと思ったら花って花……。そりゃもうがっかりしたね」
逆プロポーズというおばさんの大胆な歴史を知って驚くわたしに、照れを隠すようにゲラゲラと笑いはじめたおばさん。
わたしもつられて笑い出してしまったけれど、でもそうやって気持ちを伝えることのできるおばさんに憧れる。
「決めた! わたしの目標は妙子おばさんにするっ」
「なにがね? 」
「秘密。でも教えてくれてありがとう」
一瞬きょとんとしたおばさんだけれど、笑いが止まらないみたいで、またゲラゲラと笑いはじめてしまった。
『 僕がいないと幸せになれない美桜にはならないで 』
先生、わたしはきっと大丈夫です。
だってわたしには
大切な人たちがこんなにもいるから。
今でもこんなにしあわせだから。