春の扉 ~この手を離すとき~

「ううん。……わたしもありがとう」


とっても不思議な感じがする。
わたしがあの健太郎くんに、心からの笑顔で笑っているなんて。

2年前にはとても考えられなかったことなのに。

健太郎くんが自分を大切に思ってくれている人に気づくことができて、本当によかったって思える。

そして智香とわたしは、何でも言えて言い合える親友になれた。



「美桜もさ、……」


何かを言いたげに、でも言葉をつまらす健太郎くん。


「なに? 」

「……いや、なんでもねーしっ」


そう言うと、健太郎くんはごまかすようにわたしの頭をコツンと小突いた。

その途端、智香が「美桜になにしてんのよっ」と怒りながら走り寄ってくる。


「智香のやきもちは怖いから、わたし行くね」

「おう、またな」


わたしは笑いながら健太郎くんに手を振ると、今度こそ、腕時間とわたしを交互に睨んでいるお母さんのところに向かった。








< 343 / 349 >

この作品をシェア

pagetop