春の扉 ~この手を離すとき~

「あー、やっぱり今更よね。あなたも大学生になるし忙しいから嫌よね? あー、でもいいのいいの、何となくそう思っただけだから気にしないで、聞き流してちょうだい。それによく考えたら荷物を運ぶのも面倒だしそんな時間ないし、私ったら何を言っているのかしらねぇ」


驚いて答えを返せないでいるわたしを“嫌がっている”と勘違いしたみたいなお母さん。
急に早口になると、恥ずかしそうにいろんな理由をつけて自分をフォローし始めた。


その焦る姿が可愛らしくて、

『少しだけ返事を遅らせてみようかな? 』

なんて意地悪を思ってしまう。



お母さんに気持ちをぶつけてから2年……。

あの日からお母さんは週末には必ずと言っていいほどマンションに帰って来るようになって。

仕事が忙しいみたいでほとんど寝ているだけだったけれど、2人の時間というものを過ごせるようになった。


「料理と洗濯は交替制。部屋の掃除はわたし、ゴミ出しは朝早いお母さんの担当でいい? あと服と靴は脱ぎっぱなしにしない」

「えー、服の片付けは掃除にふくまれるんじゃないの? 」

「だーめ!」

「……はぁ、やっぱり言うんじゃなかった」


仕方なさそうに笑うお母さんはうれしそう。
少しずつだけれど、わたしたちは親子になっているんだよね?
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