春の扉 ~この手を離すとき~
わたしは手のひらを差しのばして花びらを待った。
閉じたまぶたには、その愛しい人の姿が浮かばないほど時間が経ってしまった。
なのに、忘れたことなんてない。
今でもまだ、こんなにも想っている。
想えばおもうほど苦しくなるけれど。
でも
どうしても心は求めてしまう。
――― 会いたい
だけど花びらはわたしの手をかすめるばかりで……
「分かってないなー。 こういうときは手のひらに舞い込んでくるものなのよ? 」
……。
それでも手のひらに入ろうとしない花びらたち。
「……もういいっ」
虚しくなってきて、空気の読めない桜の木に、つい文句を言ってしまった。
『どうせ占いなんだし』と納得できない自分に言い聞かせて、おばあちゃんの家に戻ろうと思ったとき……
ゆっくりと近づいてくる足音にハッと息をのんだ。
振り向きたいけれど、その勇気がない。
なのに胸は高鳴りはじめて、身体は震えはじめる。