春の扉 ~この手を離すとき~
「それで美桜はさ、こんな時間まで学校で何をしていたの? 生徒は帰宅していなきゃいけないはずだよね? 」
そういえば、さっきはこの質問に答えていなかった気がする。
「すみません。忘れ物をとりに行きました」
「1人で? 」
「はい」
「……ふーん」
興味ありそうに聞いてきた先生は、運転しながらわたしをチラッと見て、またすぐに道路に目線を戻した。
あれ、それだけ?
黙って校内に入ってしまったことを注意されるのかと思っていたから、少し安堵した。
のも、つかの間だった。
「まぁ、1番楽しい時期だよね。浮かれちゃう気持ちも分かるけれどね」
「……え?」
「違うの? てっきりさ、忘れ物ついでに彼氏の大胆告白にひたりに来たのかと思ったのだけれど」
健太郎くんからの告白は学校中が知っていることだから、きっと誰かが先生に話したのだろうけれど。