春の扉 ~この手を離すとき~

すれ違う車のライトに照らされた先生は少し冷たそうで、でもすぐにふっと表情を緩めた。

怒られて、でもあやされているような。
まるで子供扱いされているみたいな気分になってくる。


「でもさ、彼氏の存在がそんな美桜を変えてくれたらいいね」


「あの、それにさっきから彼氏彼氏って。健太郎くんは彼氏じゃなくて、まだ、その……」


きっとわたしが健太郎くんのことを好きで、彼氏だと思っていれば、先生の言葉でここまで嫌な気持ちにはならないのかもしれない。

でもこの関係をどう説明したらいいんだろう。
きっと健太郎くんなら『美桜は彼女です』なんてすぐに答えそうだけれど。


でもわたしの気持ちは違うし。

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