春の扉 ~この手を離すとき~
「もしかして、断れなかったパターンかな? 」
わたしは思わず先生を見ると、先生もわたしをチラッと見て、すぐに視線を前に向けた。
「当たりみたいだね。でもさぁ、好きでもない人と付き合ってるのってつらくない? 」
「……つらいです」
と答えながらわたしは、先生の横顔にうんと小さくうなずいた。
そして素直にうなずいてしまった自分に少しだけ驚いてしまう。
「僕もそういうのは無理なんだよね。好きな人でないと付き合えない」
分かってくれる人が初めていた。
周りはみんな勢いやノリで、健太郎くんとわたしが付き合うのを楽しんでいる感じなのに。
「……まぁ僕は何も手助けできないから、がんばってね」
先生はわたしに視線を向けると、にっこりとした笑顔を見せてきた。
その笑顔は間違いない。
相談というか、話を聞いてもらえるのかもと思ってしまったわたしの淡い期待を、あっさりと突き放す作り笑顔。