春の扉 ~この手を離すとき~
「それより、さっきからその。……普通は生徒を苗字で呼びません? 」
何でもいいから、少しでも言い返してみたくて突っかかってみた。
「どうして? 君は美桜だよね? 」
「そうですけど、そういうことじゃなくて」
不思議なことを聞いてくるんだねっていう顔をする先生。
わたしが変なの?
だって昨日学校にやって来たばかりの教師で、今日はじめて話をしたのに。
「でもさ、君たちも僕を『咲久也先生』って呼んでくれているのに。それとこれは違うの? 」
……確かに。
名前で呼んだ方が親しみやすいからだったのだけれど。
……これでもう呼び方を理由に突っかかっることはできそうにない。